痴呆性疾患の診断と治療  
 


■痴呆性疾患とは
脳の後天的かつ不可逆的な器質障害によって、一旦正常に発達した知能が持続的に低下した
状態をいう。すなわち、一旦正常な生活ができた人が出来なくなる場合であり、生来出来なかった
場合は痴呆とは言わない。下記の図に米国精神医学会による定義を挙げたが、このほか厚生省
は、物事を組み合わせて考えることができないということを重視している。また、特にアルツハイマー
型痴呆で問題となるのは、前病の性格が必ず変わってくることである。このために仕事・社会活動・
人間生活が損なわれた状態になる。  
 
■痴呆の定義
1.記憶の障害(短期、長期)
2.次のうち1つはある。
  A:抽象的思考の障害
  B:判断の障害
  C:高次皮質機能の障害(失語、失行、失認、構成障害)
  D:性格変化
3.1.2の障害により仕事、社会活動、人間関係が損なわれる
4.意識障害のときには判断しない
5.病歴や検査から脳器質性因子の存在が推測できる 
■痴呆の社会問題
世界的にも、一般に65歳以上の人口の高齢者の約8%は痴呆になることが避けられないと言われている。
年齢階層別に痴呆の出現率を見ると、65〜69歳では約1.2%だが、加齢とともに段階的に急激に増え、85歳以上になると約20%が痴呆になることを防ぐのは困難である。
厚生省の推計によると、65歳以上の高齢者人口は平成12年の2000万人から、平成32年には3000万人になることが予想され、現在150万人前後いる痴呆性老人の数は約2倍(270万人)に増加すると言われている。
痴呆の原因となる疾患は多数あるが、日本では脳血管障害から起こる脳血管性痴呆アルツハイマー型痴呆の2つで全体の90%を占めている。この他に、パーキンソン病、進行麻痺、クロイツフェルト・ヤコブ病(CDJ、狂牛病その他の疾患)が挙げられている。
男女別に原因を見ると(92年)女性はアルツハイマー型痴呆が多く約42%とされているが、現在ではこれより増加している。これは、女性の方が長命であるためと考えられている。 (下記の図)
自宅以外で、施設収容されている老人約25万人のうち下記の図、一般病院や老人病院の収容例の問題として、閉鎖病棟でないため徘徊等により行方不明になることがある。また特に疾患がないと6ヶ月以上は入院できない、入院中は何かと治療を行い医療費高騰の原因となる恐れがある、徘徊や昼夜逆転などで同居する家族が非常に困ることが多い。
■正常な物忘れと異常な物忘れ
最近、「物忘れ」が強くなったことを気にして、神経内科を受診する人が増えているが、正常な記憶障害と異常な記憶障害とは異なる
正常な記憶障害と病的な記憶障害
正 常 異 常
・記憶の一部の想起障害で軽度時・
 場所・人物等の見当識あり
・学習能力あり
・記憶力低下を気にする
・徐々に進む
・記憶障害が著名
・見当識障害
・学習能力障害
・記憶力低下を気にしない
・進行が早い
■痴呆性疾患の診断過程とその特徴
痴呆性型の診断過程は以下のとおりである。
1.痴呆の有無・段階の検査
  最も簡単で繁用されているのは、9問からなる長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)
  である。
  30点満点で、20点未満が痴呆の疑い、10点未満だと完全な痴呆とされ、次の診断過程へと
  進むが正常者でも80歳代では27〜28点に低下する。
  この他にMMS(mini-mental state examination)、WAIS−R、Benton-VTR、Raven-CPM
  などの検査が行われる。
  1人の患者さんについて検査を行うのに約2時間を要するが、高齢者は集中力が持続しにくい
  ため、30〜40分ずつ2,3日に分けて行う。
2.脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆の鑑別
  世界的に使用されているのは、ハチンスキーの虚血スコアである。これは基本的に脳血管性
  痴呆に多い症状を重みづけたもので、7点以上だと脳血管性痴呆、4点未満だとアルツハイマ
  ー型痴呆とされる。
  この他に、文部省痴呆研究班の診断基準、DSM−Y、天秤法等が用いられる。
3.血液性化学検査・生理学的検査
  てんかんや甲状腺機能低下症などの有無を調べ、こうした疾患と鑑別する。
4.画像診断
  CT、MRI、MRA、PET、SPECT、血管撮影、3D−CT等が行われる。

痴呆の中核症状は、@記憶の障害、A認知機能の障害、B性格の変化の3つである。
全てが必ずあるわけではないが、これがあったうえで、痴呆の周辺症状として、自発性の低下、
意欲の減退、抑うつ、不安、焦燥、幻覚、作話、攻撃的な行為、不潔な行為、問題行為などが
見られる。
ある区役所が行った調査によれば、家族として最も困るものは失禁であった。  
■脳血管性痴呆の原因となる脳血管障害
日本では、脳血管性痴呆が非常に多いが、その原因は症候性または無症候性の脳卒中である。
脳卒中は、基本的に血管の病気であり、出血性と梗塞性の2つに大別される。
脳卒中を起こした後、痴呆を呈する要因を見ると、まず、年齢とその関係では高齢者ほど痴呆に
なりやすい。疾患別に見ると、単発性脳血栓では比較的痴呆を起こしにくいが、多発性脳梗塞の
場合は、脳血流低下の範囲が広く再発が多い。また、脳血栓は傷害される範囲が広く再発も多い
ため、多発性脳梗塞に次いで痴呆を来しやすい。
退院時の日常生活活動との関係では、麻痺があっても自立した人では痴呆を呈する割合は10%
程度だが、部分〜全面介助では痴呆になる率が高い。もしも、家族が脳卒中を起こした場合、時間
がかかっても自立した生活をさせるよう努力すべきである。基本的には出来るだけ本人に自分で
やらせる習慣をつけさせた方が痴呆になりにくい。
■アルツハイマー型痴呆
アルツハイマー型痴呆の問題は、@女性に多い(女性の高齢化率が高いため)、A基本的な予防策や治療法がない、B画像診断上も予知することができない、C薬物療法としては最近発売されたアリセプトR以外に対症療法しかない、などの点がである。
脳血流を見た場合、脳血管性痴呆では主として前頭葉に血流障害があるのに対し、アルツハイマー型痴呆では初期に頭頂葉、側頭葉、後頭葉の血流障害が見られ、最後に全体的な血流障害を呈する。
前駆症状としては不安、抑うつ、睡眠障害などがある。
性格的には、引っ込み思案の人、人付き合いの悪い人に多く、起こしにくいと言われるのは、社交性のある人、趣味の多い人、ストレス発散の上手な人、頭脳を使う人などである。
患者に対応する際の注意は下記のとおりである。
1.その人が家庭にとって必要な人であると意識を持たせる
2.環境の変化を少なくする(家の新築や引越しは悪化につながる可能性がある)
3.昼夜逆転が起こると必ず悪くなる  昼間はできるだけ起こす。 外出させる
4.感情的なストレスを少なくする
5.基本的に患者は記憶の低下にとまどっていることを理解してあげる
6.徘徊や尿失禁がひどくなると痴呆が進む  自分で排泄させる環境をつくる

まとめ
痴呆の予防上大切な日常生活上の注意は下記のとおりである。また、日本人で多くを占める脳血管性痴呆
の原因となる脳卒中の予防には、原因となる病気の治療、定期的健康診断、ストレスの回避・発散、適度な
運動、規則的な生活が重要である。特に高齢者では血液の濃縮も問題となる。汗をかいたときだけでなく、
二日酔いも一種の脱水状態にあるため、水分補給を心がける。
痴呆の予防では、自分の存在価値をもたらせる生活が基本となる。そのためには若いうちから趣味をたくさ
んつくっておくことがよいと思われる。
 1.単純な日常生活をしない
 2.脳卒中を起こしやすい病気のある人はきちんと治療する
 3.スポーツする場合は単調にせず、なるべく頭を使う
 4.趣味をもつ(外に出たり、他者と接触する機会のあるもの)
 5.社交的であるように
 6.食物では塩分を控えめに 肉類よりは魚類を摂る
 7.肥満は万病のもと できるだけ標準体重を目指す
 8.喫煙は脳の循環を悪くする
 9.アルコールは控えめに
10・常に発想の転換をする